ケロちゃん大王(前編)

 ある昼下がりの午後、休憩時間中に
無神経に荒々しく、診療所のドアを叩く音が、
 「お~~イッ!!、誰もおらんのか~~ッ!!」
ガンガンとドアを揺さぶるように叩く、

  (全く、なんという無神経なヤツだ!!)
 とイライラしながら、ドアを開けると白い目がギロっと
こっちを睨んでいる。

 「どうしたんですか!?」

 「お~ッ、お、おまえ、そのあの先生かぁ!?」
 と斜に構えたその白い目がまた、ギロっと睨んだ。

 「そうですが・・・、」

それは140cm位の小柄な男で、頬はやせこけ、どす黒い顔を
している。そして、薄汚れた尿臭とも汗の匂いとも区別のつかない
香りただようモスグリーンのベストとズボンをはいていた。

 「あのなぁあ~、この腹~!!、どないかしてくれャ~!!」

というと、男はベストの前をはだけて、カエルのように大きなお腹を
突き出した。

 あ~~彼は、ケロちゃん大王だ!!

そうそう、この湖のほとりの北西側に古びたテントを張って住んでいる。
たまに釣れる魚をおかずに、毎日酒ばかり飲んでいる、あのオッサンだぁ!!
ピーチクパーチク村の子供たちは、
彼の緑色の服と突き出たお腹とそしてちょっと、危ない感じのするあの
貧血気味の白いギョロ目姿それに、チラチラ怖いもの見たさに訪れる子供
たちを相手に「くぉら~、クソガキども~~!!とって喰うぞォ~~!!」
と脅して、怖がらせている様子を称して、彼のことを「ケロちゃん大王」
と呼んでいた。

 で、そのケロちゃん大王に、事情を聞いてみると
どうもこの頃、そのお腹がどんどん大きくなってきて、息苦しくなってきた
大好きな酒もなんだか、美味くない、飲めなくなってきた
ということなのだ、それで、なんとかして欲しいと、私のところに飛び込んできたのだ。

 これは、診るまでもない、私の国でもそういうヤカラが一人や二人は居た。
酒の飲み過ぎ、栄養不足で腹に水が溜まっているのだ。この国では
この状態を肝硬変というらしい。

 彼の好きな色は緑色だったらしい。
それが、今では見るのも嫌になったと。今はこの湖のブルーグリーンな色が
とっても落ち着くらしい。それで、この湖のほとりに居ついたそうな。
緑は肝臓の色、それに水あまり(腹水)の状態なので、水の色が加わってブルーグリーン、
なるほど、こんなヤカラにでも平等に「色の妖精」はちゃんと教えてくれているのだ。

 ケロちゃん大王にはお酒をやめて、水を沸かしたお湯を少しずつ飲むとように、
後は今まで通り、たまに取れる魚などを少しずつ食べていると、お腹は凹んで
くる、もしこのまま酒を飲み続ければ、命の保証はできないと説明した。

 「おう、ほんまやろなぁ、さ、さけをやめて、お湯のんどったらぁ
 この腹、凹むんやな!?」と相変わらずぶっきらぼうに言うと彼は
「これ、もういらんわ」と言って、モスグリーンのベストを脱ぎ捨てて
診療所を去っていった。モスグリーンのベストの下は黒のシャツだった。
彼がこんな状態にまで落ちて行った理由が垣間見えたような気がした。

(後編へ続く)
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by nijiirosinryoujyo | 2011-05-23 21:48 | 色彩診断  

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