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ユバーバ

 ピーチクパークの湖東岸のほとりに、ユバーバが住んでいる。
彼女は80歳を過ぎたおばあさん、正確な年齢はわからないが、とにかく
よくしゃべる。お買い物カートを手押し車かわりに、ゴゴゴッ、ガガガッと
音をたてながら、舗装されていない土の道もお構いなしに突き進んでゆく。
そのお買い物カートはどこかのスーパーでもらった??ものらしいが
それも定かではない。

 そんなばあさんの行先はいつも村のはずれにある大きな温泉。大きな湯船
でたっぷり温もるのがなによりの楽しみ、彼女の場合、ゆったり湯船につかる
のではなく、「たっぷり」なのだ。いつもセカセカしている彼女にゆったりという
世界は存在しない。

 まあ、そんな温泉好きの彼女を、村の人たちはユバーバと呼んでいるのだ。
そのユバーバ、がある日、虹色診療所に例のお買い物カートでけたたましい音
をたててやってきた!!

 挨拶もそこそこに入ってきたユバーバはセカセカとカートを診療室の隅へ勝手に
押しやると、私に迫ってきた~~!!

 「せんんせ~~い。このオデキ、治りませんねん、大丈夫でっしゃろうかぁ~(*_*;」
と言うやいなや、眉間に貼ってあった大袈裟な絆創膏を、不器用な手で苦労しながら
苦心惨憺して剥がした。

 診ると大きなオデキの真ん中に傷口がパックと口を開いて、出血している。
どうしたら、こんな傷ができるのか、何があったのか、問いただしてみた。

すると、最初はただ、蚊に刺されただけだったらしい、それを毎日、毎日
丁寧に消毒し、絆創膏を貼り、しているうちにだんだんと腫れが大きくなり
それで、家にあった変色して古~~~い軟膏を塗って、様子をみていると
どんどん悪化し、さらに大きなその大袈裟な絆創膏を昨夜、貼ってついに
不安になり、ここまで駆けつけたということなのだ。

 あきれた、ただ蚊に刺されただけだったのに、こんな立派になるまで傷を育て
るなんて、私があきれはてている間も彼女は唾をそこらじゅうに飛散させながら
しゃべり続けている。こっちの質問には一切、答える気配がない。耳に入らない
らしい。

 しかたがないので、私は無言でもくもくと処置を続けた。紫雲膏(紫色の
軟膏で炎症をおさえ、殺菌作用のある紫根が含まれている)を塗って、処置が終わり
これで治るから、安心しなさいというと、ユバーバはようやくこっちの話しに
耳を傾けた。

 彼女には自宅での処置は禁じた、また何をしでかすかわからない。
それで、毎日、ここへ処置を受けに来るように説明し、1週間程通ってもらった。
傷もようやく小さくなり、ユバーバも安心し始めたころに、彼女の好きな色を聞いてみた。

 その答えは「臙脂色(えんじいろ)」だった。
昔はもっと、はでな明るい赤が好きだったらしい。しかし、今は臙脂、濃い紅色だ。
聞くと、小さいころに早く、お父さんを亡くし、10年前には夫にも先立たれたとのこと
村で見かける、彼女はいつもセカセカとカートをその年令を考えると暴走とも思える
ような勢いで押してどんどん歩きまわっている。

 彼女のテーマは移動、なのだ。それも何かを追い求めているように見える。
早くに父親を亡くした人によく見られる傾向だが、無いものねだりをしてしまう
人がいるように感じている。ユバーバの場合もそうかもしれない。夫も亡くした
今、取り組むものが無いのだ。

だから眉間にできた、ただ蚊に刺されただけの湿疹に過剰に取り組み、馬鹿でかい
絆創膏を貼らないといけないような傷にまで育て上げたのだ。

 治療最後の日、眉間にはイボのような小さな出来物が残った。
これはさすがに彼女もしかたないと観念したらしい。
「お蔭さまで、命拾いしました~~ッ」と、
大袈裟にも思える、礼を言うと、彼女はまた、お買い物カートを駆って
村へと出かけて行った。

 こんどは、何が起きるのだろう~!?
そんなユバーバの後ろ姿を見ていると、そう思わずにはおれなかった。

# by nijiirosinryoujyo | 2011-06-09 22:22 | 色彩診断  

フローラさん

 ピーチクパーチク村の湖北に、綺麗なお城のような結婚式場がある。
今日、診療所を訪れたのはその結婚式場の予約受付係フローラさんだ。
フローラさんは勤め始めて5年目、予約の他に企画などもまかされる
ようになり、責任がどんどん重くなってきた。そして、最近、結婚式場の
人気もあがり大盛況。仕事が増々忙しくなってきたのだ。

 彼女は責任感が強く、おとなしく真面目なタイプ、もともと濃い青系が
好きだったのだが、企画の仕事をするようになってから緑系が好きになって
きたとのこと、で、今日はうつ気味で、少々疲れも目立ち、おまけになんだか
フラフラする、目まいがしそう・・・、とのこと。

 「それで、今日はどんな色が気になりますか?」
と聞いてみた。

 「え~っと、このターコイズブルーですね。これが、落ち着きます。」
そして、色のトーンはディープなトーンを選んだ。
インドにアーユルベーダ医学というのがある、私の国にでもよく知られている。
彼女はそのアーユルベーダ医学で言うところのカファタイプ、水毒体質で体調が
すぐれなくなると、この症状がでる。

 「それで、このごろ肩がとても凝るんです。」

 先ほどから、彼女は右肩ばかりさすっている。

右側に症状が出るのは彼女の場合、過剰な責務を果たされているストレスから
後ろ向きな陰性のストレスの場合、右側に症状の出ることが多い。
そのことを説明すると、この頃、自分にはとてもこんな重大な仕事は務まらない
今まで出来たこともなんだか自信がなくなり、出勤するのも億劫になってきた
と日頃の思いを語りだした。

 彼女に何か漢方薬処方でもと考えたが、彼女は漢方は嫌いだとのこと
それで、考えた結果ヨーロッパに伝わるバッチフラワーレメディという方法を
用いることにした、そのバッチフラワーレメディのうち「エルム」というレメディ
を提案、「エルム」は責任が膨れ上がってしまい、押しつぶされそうになり
自信を失っているようなときに服用すると、本来の責任感の強い能力と自信が
回復するレメディ、このような彼女のケースに良いと思われた。

 それから、水毒症状を改善するために、軽く汗をかく程度のウォーキングを30分
日課ろすること、ジュース、アイスクリーム、チョコなど甘いものを制限し
アルコールも1週間控えることも付け加えた。


 1週間後、フローラさんから電話があった。
運動と食事制限でフラつきも無くなった。「エルム」の服用で仕事にも
なんとか、前向きに取り組めるようになった。今はソフトな感じのトーンの
色が良いと感じると。  かなり、いい感じ、バッチフラワーもあなどれない
療法だ。

# by nijiirosinryoujyo | 2011-05-29 13:04 | 色彩診断  

ケロちゃん大王(後編)

 やっと、梅雨が開けた爽やかな朝、今日は休日なので
診療所に備え付けの、手漕ぎボートで湖上散歩に出かけることにした。

 湖の西岸沿いにゆっくり北上すると、穏やかな山風が吹きだした。
船底を流れる水の音がコロコロと心地良よくこころに響く。そんな
気持ちの良い気分に浸っていると、フッと何か白く光る線がボートに
引っかかたのを感じた。

 「こぉおら~~~!!、釣り糸をボートに引っ掛けるな!!!」

 といきなり怒鳴られた。
 
 見るとボートの舳先に釣り糸が引っ掛かってしまっている。
慌ててボートを戻し、釣り糸をはなした。

 「どうも、すみません~~!!」

 頭をかきながら、岸の方へ目をやると、見かけた顔が・・・・、

 ケロちゃん大王だ。
 向こうも私に気がついた。

 「お~~、先生やないけぇ~っ!?」

 あまり歓迎すべき再会ではない、でも、その後の様子も気がかりなので
あの張り出したお腹の具合を聞いてみた。
どうやら、あれから私の言いつけを守り、酒を絶ち、お湯と魚と
少しずつ食事をしているとのこと、それで、確かにお腹は少し凹み
息苦しさも楽になったとのこと、

 あの時のギロッと睨んだ目はやや穏やかになり、むしろ優しい
目付きに変わっている。

 それでも、下痢が続きなかなかおさまらないらしい。
体が余分な水を出そうと努力しているのだろう、しかし、このまま
下痢が続くのは体にとっては辛い状況だ。

 そこで、ブルーグリーンに属する処方のうち肝硬変と下痢に効く
柴苓湯を10日分処方することにした。代金はいただけそうにもないので
彼の今日の収穫の一部、魚を一匹もらって帰ることとした。

 ボートで帰ろうとしたとき、ケロちゃん大王は私を呼び止めて
彼の生い立ちやら、身の上話をし始めた。彼は両親を早く亡くし
里親に厳しく、辛く育てられたがそりが合わず家を飛び出し
天涯孤独だという。一度は結婚もしたが、白黒はっきりさせないと
気が済まない正確に妻がついてゆけず離婚になったこと、仕事も
その性格が災いして、どこでも喧嘩になってしまい、酒浸りの日々となり
今のような姿になりはてた、とのことだった。

 ケロちゃん大王と子供たちに呼ばれていた、奇妙奇天烈な彼だが
なるほど、そんな事情があったのだ・・・。

 梅雨明けの気分転換のつもりで出かけたが
 思わぬ魚一匹の収穫で、今日の湖上散歩は終わった。

# by nijiirosinryoujyo | 2011-05-25 21:27 | 色彩診断  

ケロちゃん大王(前編)

 ある昼下がりの午後、休憩時間中に
無神経に荒々しく、診療所のドアを叩く音が、
 「お~~イッ!!、誰もおらんのか~~ッ!!」
ガンガンとドアを揺さぶるように叩く、

  (全く、なんという無神経なヤツだ!!)
 とイライラしながら、ドアを開けると白い目がギロっと
こっちを睨んでいる。

 「どうしたんですか!?」

 「お~ッ、お、おまえ、そのあの先生かぁ!?」
 と斜に構えたその白い目がまた、ギロっと睨んだ。

 「そうですが・・・、」

それは140cm位の小柄な男で、頬はやせこけ、どす黒い顔を
している。そして、薄汚れた尿臭とも汗の匂いとも区別のつかない
香りただようモスグリーンのベストとズボンをはいていた。

 「あのなぁあ~、この腹~!!、どないかしてくれャ~!!」

というと、男はベストの前をはだけて、カエルのように大きなお腹を
突き出した。

 あ~~彼は、ケロちゃん大王だ!!

そうそう、この湖のほとりの北西側に古びたテントを張って住んでいる。
たまに釣れる魚をおかずに、毎日酒ばかり飲んでいる、あのオッサンだぁ!!
ピーチクパーチク村の子供たちは、
彼の緑色の服と突き出たお腹とそしてちょっと、危ない感じのするあの
貧血気味の白いギョロ目姿それに、チラチラ怖いもの見たさに訪れる子供
たちを相手に「くぉら~、クソガキども~~!!とって喰うぞォ~~!!」
と脅して、怖がらせている様子を称して、彼のことを「ケロちゃん大王」
と呼んでいた。

 で、そのケロちゃん大王に、事情を聞いてみると
どうもこの頃、そのお腹がどんどん大きくなってきて、息苦しくなってきた
大好きな酒もなんだか、美味くない、飲めなくなってきた
ということなのだ、それで、なんとかして欲しいと、私のところに飛び込んできたのだ。

 これは、診るまでもない、私の国でもそういうヤカラが一人や二人は居た。
酒の飲み過ぎ、栄養不足で腹に水が溜まっているのだ。この国では
この状態を肝硬変というらしい。

 彼の好きな色は緑色だったらしい。
それが、今では見るのも嫌になったと。今はこの湖のブルーグリーンな色が
とっても落ち着くらしい。それで、この湖のほとりに居ついたそうな。
緑は肝臓の色、それに水あまり(腹水)の状態なので、水の色が加わってブルーグリーン、
なるほど、こんなヤカラにでも平等に「色の妖精」はちゃんと教えてくれているのだ。

 ケロちゃん大王にはお酒をやめて、水を沸かしたお湯を少しずつ飲むとように、
後は今まで通り、たまに取れる魚などを少しずつ食べていると、お腹は凹んで
くる、もしこのまま酒を飲み続ければ、命の保証はできないと説明した。

 「おう、ほんまやろなぁ、さ、さけをやめて、お湯のんどったらぁ
 この腹、凹むんやな!?」と相変わらずぶっきらぼうに言うと彼は
「これ、もういらんわ」と言って、モスグリーンのベストを脱ぎ捨てて
診療所を去っていった。モスグリーンのベストの下は黒のシャツだった。
彼がこんな状態にまで落ちて行った理由が垣間見えたような気がした。

(後編へ続く)

# by nijiirosinryoujyo | 2011-05-23 21:48 | 色彩診断  

マリオン青年

 ある、春先の晴れた朝、憂鬱な表情を浮かべて
ピーチクパーチク村に住むマリオン青年が診療所を訪れた。
 「あれ、今日は仕事は休んだの?」

 私の問いかけに、マリオン君はうつむきかげんに頷いた。
聞くとこの頃、動悸がするらしい。勤め先の隣町にある病院で
精密検査も受けたが異常はなかったらしい。それで、私のとこ
ろにやってきたのだ。

 動悸はいつ起きるのか?
詳しく聞いてみると、隣町へ通勤で使う電車に乗っているときに
起きるようだ、それ以外の時は起きないとのこと。

 「ふ~~ん、それで、こう、胸のあたりからノドにかけて切迫してくる
 感じとか、そういう症状は無い?」

 私の質問に、うつむき加減だったマリオン君は顔を上げて、
 「あります。」・・・と、

 それで、普段好きな色を聞いてみた。
 「濃い青色です。」マリオン君答えた通りの色のシャツを着ている。

 濃い青は深い海の色、この色は深い愛を象徴するが、マイナスに
作用すると、ノドのあたりに症状が出る。声にならない、声が溜まった
時によく起きるのだ。

 それで、マリオン君にそういった悩みは無いか聞いてみたら、職場で
人事異動があり、新しい上司とうまくいっていないらしい。新しい上司の
好きな色は赤色で、成績、実績、ノルマ重視のタイプ。情緒的なことは
一切通用しないとのこと、それでは紺色のマリオン君にはちょっと、辛いはず。

 なるほど、よく分かった。

 マリオン君には他人を変えることは出来ないので、相手の特徴を把握し
そういう人として接することを説明、そして、紺色の補色である、レモンイエロー
の小物を身につけたりして、気分を明るくすること、グレープフルーツの香りが
ふさいだ気分を改善してくれることを説明。

 その上で、半夏厚朴湯という漢方薬を処方、ノドのつかえ感を軽減し
不安感や動悸をおさめてくれる働きがある。これを電車に乗る前に服用
することを説明した。半夏厚朴湯は紺色を選ぶ人の不安感や神経性胃炎
のどのつかえ感によく効く。


 後日、再診したマリオン君、かなり明るい症状に、
しばらく半夏厚朴湯を続けてみるとのこと、また、隣町でグレープフルーツの精油も
買って、職場で活用しているとのことだった。

  なんとかなりそうで、良かった・・・。

# by nijiirosinryoujyo | 2011-05-21 21:26 | 色彩診断